‘弁護団からのお知らせ’

相馬市玉野地区集団ADR申立ての和解案に対する東京電力の不当な拒否回答に抗議する声明

2018-11-12

玉野記者会見

1、和解案の内容とその受諾について

2018年(平成30年)10月1日、原子力損害賠償紛争解決センター(以下「センター」という。)は、相馬市玉野地区(以下「玉野地区」という。)の住民419名の申立人らが東京電力ホールディングス株式会社(以下「東京電力」という。)に対し、福島第一原子力発電所事故(以下「本件事故」という。)の慰謝料増額等を求めた和解仲介手続において、本件事故当時19歳以上の玉野地区在住者に最大20万円を賠償する和解案(以下「本和解案」という。)を示した。

本和解案は、提示した賠償額・対象範囲は被害実態に見合わないと評価せざるを得ないが、自然豊かな里山である特性を活かし、豊かな自然の恵みを享受することで生計を維持し、地域のつながりを大事にしながら、平穏な生活を送ってきた玉野地区住民らが、本件事故により、同地区が高濃度放射能汚染されたことにより、自然を利用した生活の中断を余儀なくされたことや、避難を余儀なくされたこと、そして生活全体を根底から覆されたことなどを丁寧に認定し、玉野地区住民に中間指針追補が自主的避難等対象者に認めた一律の賠償額を超える精神的損害を認めている点では意義のあるものであった。

申立人らは、決して本和解案が充分なものとは考えていないものの、被害事実を丁寧に認定したこと及び一律の賠償額を認めたことを踏まえ、和解案を受諾する旨の回答を行った。

2、東京電力の回答と批判

しかし、東京電力は、2018年(平成30年)11月9日、和解案を受諾することができないと回答し、和解案を拒否した。

東京電力の拒否理由は、概ね以下の3点である。

(1)玉野地区の年間の積算放射線量は20mSvを超えない水準であり、仮に玉野地区の申立人らについて、本件事故に伴う不安等が生じていたとしても、それは漠然とした不安感ないし抽象的な危惧感というべきものであり、慰謝料増額を基礎付けるような法益侵害が発生したとは考えられないこと

(2)玉野地区の空間線量率は他の自主的避難等対象区域と比べて非常に高いとはいえないこと

(3)センターが認定した事実は玉野地区特有の事情ではなく、広く自主的避難等対象区域でみられる事情であり、中間指針追補において考慮されていること

しかしながら、玉野地区は、自主的避難等対象区域の中でも突出して高濃度の放射能汚染がなされたことは明らかであり、申立人らは自然の特性を利用した自給自足に近い生活を送ってきた者であることから、その被害の程度は質的にも量的にも、他の地区との比較において、極めて深刻であると言わざるを得ない。

東京電力の主張は、既に本和解案提示前からなされてきた主張の繰り返しであり、申立人らが本和解仲介手続において丁寧に明らかにしてきた玉野地区の日常生活阻害の実態を殊更軽視するものであって、甚だ遺憾である。

3、東京電力は和解案を受諾すべきであること

和解案提示理由書で示された判断の基礎となる被害事実は、長い時間をかけた和解仲介手続で丁寧に認定されたものであり、その判断は相当程度の重みを持っていること及び和解金額が低廉であることから、少なくとも東京電力が和解案を拒否することはあってはならないことである。

東京電力の拒否回答は、被害の切り捨てそのものであり、申立人ら被害者にとって、本件事故により苦しめられるとともに、その被害の救済を東京電力に拒否されるという耐え難い苦痛を与えるものである。

この間、東京電力は、原発事故の加害者でありながら、浪江町集団ADRに対する対応にみられるように、国の機関であるセンターの示した和解案を拒否している。

特に、東京電力は和解仲介手続期日において、一律の賠償自体に応じられないという拒否理由を示している。しかし、このような考え方は、原賠法第3条の解釈からも、中間指針の考え方からも成立し得ないものである。さらに、慎重な審理を経て、仲介委員によって申立人らに共通すると認められた最低限の損害に対する賠償を否定することになることから、東京電力自身による和解案の尊重の誓いにも違背するものであることも明らかである。

今後、東京電力の拒否回答が続出する事態となれば、極論すればADRも直接請求と何ら変わりのない制度となり、センターの存在意義そのものがなくなり、被害の実態を直視することなく、原子力損害賠償紛争審査会の中間指針に縛られて身動きの取れない損害賠償実務が定着することになってしまうと危惧する。

以上から、弁護団は、東京電力に対し、和解案を尊重し受諾をすることを強く求めるものである。

2018年(平成30年)11月12日

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