原子力損害賠償紛争解決センターへの申立 (川内村住民有志による集団申立)について

2015-02-27

2015年(平成27年)2月27日

報道機関 各位

原子力損害賠償紛争解決センターへの申立
(川内村住民有志による集団申立)について

ふくしま原発損害賠償弁護団

ふくしま原発損害賠償弁護団は,2011年(平成23年)11月30日に、福島県弁護士会各支部所属の弁護士が集まって,事業者・非事業者を問わず,被害にあった方々の完全賠償を実現するために設立された弁護団(現在の弁護士数は66名です)。

この度,当弁護団は,原子力損害賠償紛争解決センター福島事務所に対し,双葉郡川内村住民のうち,旧緊急時避難準備区域に自宅を有する住民有志(112世帯258人)による和解仲介集団申立を行いました。

川内村は,原発事故による全村避難を実行した後,2012年(平成24年)1月末に「帰れる者から帰ろう」という緩やかな帰村宣言を発しました。しかし,川内村に実際に戻る住民は少数であり,現在もその状態に大きな変化はありません。旧緊急時避難準備区域に自宅のあった川内村住民の中には,現在も避難を継続している方,避難先と川内村の自宅とを行き来している方,家族と別れて二重生活を継続している方,完全帰村するも,村内の除染が完了せず,強制避難地域の社会的インフラを利用できないまま不自由な生活を余儀なくされている方などがいらっしゃり,それぞれ置かれた状況は様々です。しかし,いずれの立場にあっても,本来の平穏な日常生活を回復できないままにあることに変わりはなく,川内村の実態は,到底,賠償の打ち切りが正当化されるような状態ではありません。

ところが,そのような状態の中で,東京電力は,旧緊急時避難準備区域の月10万円の精神的損害(慰謝料)の賠償を,2012年(平成24年)8月末日をもって,一律かつ形式的に打ち切りました。

今回の申立は,川内村内の旧緊急時避難準備区域内の住民有志が,あまりに不合理な東京電力の上記打ち切り措置に対し,その是正を求めて立ち上がった集団申立です。

本件集団申立については,第二弾申立を準備中です。

ふくしま原発損害賠償弁護団
共同代表 弁護士 岩 渕   敬
共同代表 弁護士 齊 藤 正 俊
事務局長 弁護士 渡 邊 真 也
弁護団電話 024-922-2974


平成27年2月27日

【川内村集団申立て概要】

ふくしま原発損害賠償弁護団

第1 申立ての趣旨

  • 申立人1人あたり,180万円の賠償(平成23年3月11日から平成24年8月までの精神的損害)
  • 申立人1人あたり,平成24年9月から毎月20万円の賠償(平成24年9月以降の精神的損害として。平成27年2月末までの30か月分とすると,計600万円)

第2 申立ての理由

1 川内村の概要

(1)地理等

福島県双葉郡中西部に位置し,村の南北の阿武隈山地が走る中山間地域にある村であり,富岡町・楢葉町などと接する。総面積の約86%を山林・原野が占める。

村のほぼ全域が福島第一原子力発電所から30km圏内に収まり,20km圏内部分と30km圏内部分に分かれる。

平成23年3月1日時点の住民登録は3032人であり,65歳以上の人口は33.9%程度であった。

(2)避難指示等

  • 平成23年3月14日 村長が全村避難を指示
  • 平成23年3月16日 集団で郡山に避難
  • 平成23年4月22日 警戒区域,緊急時避難準備区域設定
  • 平成23年9月30日 緊急時避難準備区域の解除
  • 平成24年1月31日 緩やかな「帰村宣言」
  • 平成24年3月26日 川内村役場が元の場所へ。
  • 平成24年4月1日  村内の警戒区域が解除
  • 居住制限区域と避難指示解除準備区域に再編
  • 平成26年10月1日 避難指示解除準備区域の指定が解除
  • 居住制限区域が避難指示解除準備区域に

(3)帰村状況

震災前およそ3000人であった住民登録は2700人余りに減少。うち,村内で生活する者(仮設・借上げ住宅等と自宅の行き来をする者含む)は約1500人。また,完全帰村者(避難先の仮設住宅や借上げ住宅の鍵を返却して自宅に戻った者)は約500人。

特に,若い世代の帰還が進んでおらず,村内生活者のうち40代の割合は50%を下回る。逆に,65歳以上の高齢者は44%となり,事故前より10%以上増えている。

2 現在の川内村村民に対する賠償の問題点

(1)川内村村民に対する賠償の現状

全村避難を実行しながらも,政府の避難指示によって警戒区域と緊急時避難準備区域に分断されたことから,村民間で賠償に大きな格差が生じている。すなわち,警戒区域内の住民については,平成23年3月11日から避難指示解除された後相当期間が経過するまで,精神的損害の賠償が継続されるが,緊急時避難準備区域住民については,平成24年8月末で精神的損害の賠償が打ち切られた。賠償額にすると,300万円以上の格差が生まれていることになる。

(2)精神的損害の賠償打切りが時期尚早であったこと

中間指針第二次追補においても,平成24年8月末は緊急時避難準備区域住民への賠償の終期の「目安」に過ぎず,①特段の事情がある場合,②復旧計画の進捗状況と異なる場合という2点の留保がなされている。

川内村の場合,後述する通り,生活再建の前提となる除染が進んでいないこと,従前依存していた浜通りのインフラが整備されておらず,村内の社会的インフラも回復していない。つまり,川内村では,中間指針が緊急時避難準備区域の精神的損害の終期を定めた大前提である「住民が帰還し,住民向けサービスの本格的な再開や除染などの生活環境の整備」が現実になされておらず,その被害実態からして,打ち切りは時期尚早というほかない。

futabaMap

(3)避難指示の指定と賠償継続の必要性の乖離

現在の賠償は,避難指示区域によって内容が決定されている。しかし,同じ川内村内において,福島第一原発から20km圏内に住んでいたかそうでないかによって生活圏が異なるわけではない。村民は原発事故によって同様に避難を強いられ,生活上の支障を強いられてきた。住民の精神的損害が生ずる地域(範囲)は避難指示の範囲と一致しない。

3 川内村の生活基盤,生活環境の回復は未了である

(1)除染が未了であること

村民の帰還を進めるためには,まず除染が大前提である。

しかし,川内村の除染は当初の計画から大きく遅れている。また,行った除染の効果も十分ではなく,平成26年5月から事後モニタリング・フォローアップ除染が行われる予定である。さらに,村の総面積の約86%を占める山林・原野については除染の具体策が決まっておらず,見通しが立たない不安が続いている。

除染土壌等の仮置場は,合計面積20万9000㎡,予定最大数量は22万2000袋とされているが,平成26年3月末現在16万袋が運び込まれており,さらに搬入時期等についても不明のままである。

(2)教育面の問題

村内の保育園,小・中学校は平成24年3月に再開したが,再開時点の児童・生徒数は従来の6分の1程度であり,平成26年度でも5分の1程度である。生徒数の激減による不都合等も生じている。

また,村内から通学可能であった高校6校は避難指示区域内に所在し,村内からの通学が不可能となってしまった。そのため,現在川内村から通学可能な高校は,従来学区外であった2校しかなく,子ども達の高校進学の選択肢が極端に減ってしまっている。

放射線被ばくの心配のみならず,教育面の問題も,川内村へ帰村しない理由の一つである。

(3)生業の喪失

原発事故前は,申立人の中でも,半数以上が農林業を生業とし,大部分の世帯が家庭菜園を行っていた。また,きのこや山菜を採って山とともに生活を送ってきた村民が6割以上,釣りを趣味にしていた村民が4割以上と,豊かな川内村の自然とともに生活していた。しかし,作付制限,農地の放射線量が高いために作付が再開できず,農産物は出荷後も従来のような売上げが見込めない。

さらに,沿岸部の事業所に勤務していた労働者(約500名)も,事業所は休業ないし廃業に追い込まれたため,職を失うことになった。村内の商店,事業所も休業・廃業が相次いでいる。

(4)医療体制

川内村の医療機関は1ヵ所のみであり,村民の多くは,大熊町,双葉町,富岡町の病院に通院していた。しかし,原発事故により,この3町の病院は閉鎖を余儀なくされ,川内村の医療機関も,平成26年4月から常勤医師が不在となったために診療時間が限定的となった。また,現在,村内には入院・介護施設が存在しない。現在,川内村の周辺の拠点病院としては,小野町や平田村に存するが,この2町村に通ずる道は,道幅も狭く,峠道であるなど,道路事情は極めて悪く,自ら運転して通院することは困難を伴う。このように,川内村の医療体制は,原発事故前と比較して極めて脆弱である。

他方で,原発事故後に定期的な通院を必要とするようになった申立人は全体の88%にのぼり,通院頻度も原発事故前より上昇しており,避難生活の影響から,医療ニーズは変化している。村民が帰村しない理由として一番大きく挙げられているのが「病院」の問題であり,帰村した住民が不便な点としてあげるのも「通院」である。

(5)物流の未回復

原発事故前,川内村への物流は,富岡町の存在を前提として成立していた。しかし,原発事故のために,長期間国道6号線の通行規制がなされ,富岡町が避難区域に指定されたことから,従来の物流ラインは崩壊してしまった。そのため,帰還村民や村内の小売業者は,物品の仕入れのため,あまり買い物に利用していなかった郡山市,田村市等の周辺市町村まで出向いたり,宅配注文・共同仕入れ等の方法によったりと,様々な負担を強いられている。

(6) 以上の通り,従来通りの生活のための前提となる除染が未了であり,さらに社会的インフラの整備がなされておらず,川内村での日常生活を回復することが当面不可能である。

4 村民が被った精神的損害

(1)被ばくに対する不安

平成25年9月時点の川内村の空間線量率を基にすると,職業従事者の年間推定被ばく線量は,年間1.1~5.5mSvとされている。また,平成26年6月時点でも,村内のモニタリングポストで0.41μSv/hを計測するなど,村内は依然として除染が必要な程度に高い線量にさらされている。さらに,川内村の総面積の約86%を占める山林の除染は具体的な方策が定まっていないにもかかわらず,村民の半数以上が山林に囲まれた状態での生活をしている。

そのため,申立人らは,現在も放射線被ばくの不安にさらされ,山及び川を利用した生活を奪われ,日々生活上の苦難を強いられている。

(2)日常生活上の不都合

除染の未了や教育,医療,物流等についてインフラが回復しないことによる日常生活上の不都合が生じていることに加え,さらに以下のような不都合が生じている。

ア 近隣住民や家族との相互関係の喪失

近隣住民との物々交換等による相互扶助関係,家族内部での野菜や食事の提供等による相互扶助関係が成立していたにもかかわらず,原発事故に伴って仮設住宅等での避難生活を余儀なくされ,このような相互扶助関係が喪失し,村民同士・家族間のサポートがなくなった。

イ 都市型消費生活への転化を余儀なくされ生活が困窮している

村内では,近隣住民・家族間からの物々交換によって食料品・生活用品を入手する仕組みが存在していた。また,水も井戸水を利用し,野菜等も相当程度自給自足でまかなっていた。しかし,郡山市等の都市部への避難を余儀なくされたため,生活スタイルが変化し,それにより経済的負担が大きく増加し,日常生活が困窮するに至っている。

ウ 世帯分離が生じている

原発事故に伴う避難生活により,相当数の世帯で世帯分離が生じている。これまで成立していた家族間の相互扶助関係が喪失し,家族各々の負担が増加している。

エ 居住環境の変化によるストレス

住民は,これまで井戸水を利用し,広い自宅で,豊かな自然を享受して暮らしてきた。しかし,原発事故によって,狭い仮設住宅等での生活を余儀なくされ,豊かな自然に触れることもできなくなり,上下水道やミネラルウォーターの利用せざるを得なくなった。部屋の狭さ,隣室の生活音,プライバシーが十分に保たれていないことによるストレス等,様々なストレスを感じざるを得ない状況に置かれている。

オ 農業や趣味を行うことが出来なくなった

米・野菜作り等の農業,山菜・きのこ採り,釣り等の多様な趣味を楽しんでいたにもかかわらず,本件事故によって狭い仮設住宅への避難生活を余儀なくされ,そのような活動を一切行うことができなくなった。日常生活動作(ADL)の減少低下による健康状態の悪化という事態も招いている。

5 結論

以上の通りであるから,平成24年8月末での精神的損害の賠償打切りは不当であり,原発事故によって平穏な生活を奪われたことを慰謝するに足る金額は月20万円を下回ることはない。

したがって,月20万円を基準とする精神的損害の賠償,及び,平成24年9月以降の精神的損害の継続的な賠償を求め,本申立てに及ぶ。

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